高松高等裁判所 昭和32年(う)470号 判決
論旨は原判示第一事実は未だ強制猥褻未遂とは認め難いし、同第二事実も真の強姦の目的をもつて前田美枝子に不都合な行為に及んだものではないというのである。
しかし男女間における接吻は性欲と関連を有する場合が多く、時と場合即ちその時の当事者の意思感情や行動状況環境等により一般の風俗性的道徳感情に反し猥褻な行為と認められることがあり得る。人通りの少い所や夜間暗所で通行中の若い婦女子にその同意を得られる事情もないのに強いて接吻を為すが如きは、親子兄妹或は子供どうし等が肉身的愛情の発露や友情として為すような場合とは異り、性的満足を得る目的をもつて為したものと解せざるを得ず、かかる状況下になされる接吻は猥褻性を具有するに至るものといわなければならない。証拠によれば原判示第一事実は、被告人が当夜午後九時二十分頃徳島県美馬郡岩倉町字別所岩倉中学校東方の路上に於て、英語の勉強に行つての帰途にあつた見知らぬ二人連れの女子中学生を認めるや、その中の一女子に強いて接吻をしようと考え、三好淑子(当時十三年)に対し道をたずねるような風を装うて呼び止め、不意に同女の両肩に抱きついたが同女及び共に歩いていた国岡勝美(今一人の女子中学生)に大声で救を求められた為その目的を遂げなかつたという事案であるから、かような状況下における接吻は前説示に照し十分猥褻性を具有するものであり従つて強制猥褻未遂罪の成立を否定することはできない。
又原判示第二事実はその挙示する証拠により優にこれを肯認し得るところであつて、真に強姦する意図のもとに行われた行為ではないとの論旨は到底採用し得るところではなく論旨は何れも理由がない。
(裁判長判事 玉置寛太夫 判事 渡辺進 判事 合田得太郎)